コラム

展示会で「販売予測AI」セミナーを開催しました

2023/11/16

セミナーを見逃した需給調整・生産部門の方へ、弊社の取り組み状況やお役立ち情報をご紹介します

昨今、これまでにない盛り上がりを見せているAI(Artificial Intelligence:人工知能)ですが、シグマクレストでも需給調整や生産計画の前段となる販売予測についてAI活用を試みています。

2023年10月4日(水)から東京ビッグサイトにて開催された食品開発展2023において、出展者プレゼンテーション「AIを活用した販売予測 ~新商品の予測に挑む~」を行いました。初出展、初登壇であったにも関わらず研究・商品開発部門をはじめとする多くの方にご参加いただき、3人に1人の割合でプレゼン資料を請求いただきました。

このコラムでは、需給調整・生産部門の方向けに内容を改変して、解説を交えながらご紹介します。少し長い記事ですが是非最後までご覧ください。

販売予測に着目した経緯

これまで100社を超える食品企業に対して、自社開発商品の需給調整システム「需っ給さん」を紹介してきましたが、その過程で「販売計画の精度が低い」という悩みを多く聞いてきました。前年売上実績や売上予算を販売計画や販売予測とするため、生産計画の現場ではそのまま利用できないという問題です。そこで我々は販売予測をもっと楽に、直近データ等も活かした客観データにできないかと検討を重ねて、今話題のAI活用に至りました。

販売予測がもたらす影響力

釈迦に説法ですが、販売予測は生産計画にとって不可欠な要素です。生産調整と在庫最適化の肝で、販売量や需要の正確な予測ができれば生産計画を最適化し、過剰在庫や欠品の回避が期待されます。コスト削減や資源の効率化にも繋がります。
トレンドや競合他社の動向、季節変化など多くの外部要因が販売に影響を与えるため、これらの変動要因を販売予測にどう取り込むかが悩みどころとなります。

AIを活用するメリット

販売予測の重要性と外部変動要因について話をしたところで、次にAIを活用するメリットをご紹介します。 AIは高度な予測を可能にするので、次のような利点があります。

  • 精度向上
  • AIは大量のデータを高速に、繰り返し学習できるので従来の手法よりも精度向上が期待できます。

  • スピードアップ
  • リアルタイムなデータを自動処理できるので需要の急激な変化にもいち早く対応できます。
    ※スピードアップと言っても取り扱うデータ量が膨大なので、数秒、数分で出来るような代物ではございませんのでご注意ください。トレンドや競合他社の動向、天候などの変化に対応するスピードと捉えてください。

  • 複雑なデータへの対応
  • AIは我々が見落としがちな複雑な相互関係を発見し、複雑化するマーケットへの対応が期待されます。

    <雑談>

    日本では1980年代からインターネットの利用が始まり、その10年後には商用利用が開始されて急速に利用者が増えてきました。AIについて、5年、10年後の未来を想像してみてください。この記事をご覧になっている方の中に、ご家庭にある家電製品や車、スマホに組み込まれているAIの恩恵を受けている方がいらっしゃるのではないでしょうか。企業でも積極的に採用されて需給調整や生産計画の現場でも当たり前のようにAIを使う未来がそう遠くないうちにやって来るかもしれませんね。

    AIを活用した販売予測の手順

    それでは実際にどのようにAIを活用したらよいか、一般的なステップを説明します。

    ①販売データの収集

    まずはじめに販売データを収集します。過去の売上、価格、競合情報など多様なデータです。正確で質の良いデータを集めてください。

    ②重要な指標の選定

    次に、販売予測に関わる重要な指標を選定しなければなりません。たとえば、売上、需要の季節性、競合情報、マーケティングキャンペーンの効果、天候などです。

    ③データクレンジング

    ①、②で収集、選定したデータは、予測を行う前にそのデータが正確か、欠けている部分はないか、重複したデータはないか確認して修正する作業が不可欠です。このひと手間でデータの品質が向上して信頼性がぐっと上がります。

    ④データ変換

    データ変換は、異なる形式や単位を統一してデータを整える作業です。例えば、日次データを週次データにまとめる作業を指します。

    ⑤機械学習モデルの選定

    販売予測にはデータの特性や目的に合った機械学習モデルを選定する必要があります。複数のモデルを試して最適なものを見つけていきます。

    ⑥モデルのトレーニング

    販売データのような時系列データの場合、過去データをトレーニング(学習)とテスト(評価)用に分割します。より古い過去データをトレーニングに使用してモデルを訓練し、パターンを学習させます。トレーニングに使用しない残りのより新しいデータはテスト用に残しておいてください。

    ⑦モデルの評価

    モデルを評価するために、評価指標を使用します。一般に、平均絶対誤差(MAE)、平均平方二乗誤差(RMSE)、平均絶対率誤差(MAPE)などがありますが、目的に合わせて選定します。また、⑥でテスト用に残しておいたデータを使って、予測結果と比較します。

    ⑧ハイパーパラメータの調整

    モデルのハイパーパラメータを調整して性能を最適化します。

    ⑨運用化

    訓練されたモデルを実際の販売予測に適用します。定期的にモデルを再訓練することで、より良い結果が得られます。

    Amazon Forecastを選んだ理由

    シグマクレストでは、機械学習を使用した時系列予測サービスの一つであるAmazon Forecastを使って販売予測を行いました。選定理由としては、簡単に始められることと、社内にAWS(Amazon Web Services. :Amazon.comが提供しているクラウドコンピューティングサービス)の知見があったからです。前述の手順⑤機械学習モデルの選定において、最適なモデルをAmazon Forecastが自動で選択してくれる点も大きなポイントでした。

    <体験談①>

    Amazon Forecastはモデルの作成や予測の実行で都度費用が発生する料金体系なので、トライアンドエラーを繰り返すほど費用が嵩んでいきます。実際、我々がお客様から提供されたビッグデータを使って納得できるまで販売予測を繰り返した結果、AWSの明細書の桁が通常よりも1桁増えていた、という事件が発生して面食らいました。(面食らっただけではもちろん終わりませんでした…。)費用だけではなく時間もかかりますので、需給調整や生産計画の担当者が通常業務を行いながら片手間でやるとしたら正直大変だなと思いました。我々がコツコツと経験を積み重ねて、良質なサービスに繋げられるように努めてまいりますので応援していてくださいね。

    実際に取り組んだ販売予測の流れ

    それではAIを使った販売予測について、我々が取り組んできたことをご紹介します。取り組み始めた時に我々が何に躓き、悩み、そしてどのようなアプローチを行ったかをお伝えします。AIを使った販売予測をこれから試してみたい方にも何かヒントとなれば幸いです。

    時系列データを使った販売予測

    手始めに、ある商品カテゴリの販売データ(2018年6月1日~2023年5月31日)を使って、どのような結果が出てくるか試してみました。 グラフは、実際の販売データ(実績値:青色)と日次の販売予測値を重ねた一例です。グラフをご覧いただくと一目瞭然ですが、大型連休の期間に実績値が予測値を大きく上回る結果となってしまいました。

    祝日や天気を加味した販売予測

    需給調整や生産計画の担当者であれば、大型連休にどのくらい売り上げが伸びるか経験則があると思いますが、前述の販売データだけを与えた時系列予測では、日付に何の特別な意味もありませんでした。そこで、日付に祝日情報も与えることにしました。加えて、対象地域の天気情報も追加して予測値を出しました。

    祝日や天気情報を加味することで、少し改善されたように見えますが、まだ何か重要な要因を見落としているようです。

    <体験談②>

    重要な要因を探る過程で、この対象地域にある大規模イベント会場の入場者数データを入手して関連時系列データとして追加してみました。感覚的にイベントの有無や入場者数による影響がもっと出ると読んでいたのですが、期待に反する結果となりました。(とは言え、現段階では他にも改善の余地があるため結論を急ぎません。)今回は肩を落とす結果となりましたが、需給調整業務や生産計画担当者から「客観データがあればスムーズに生産計画が立てられる」という期待に応えるためにも引き続き試行錯誤を重ねてまいります。
    人間の経験や勘ももちろん大切ですが、これから人材不足がますます深刻化することを考えると属人化解消の道筋を立てておきたいものですね。

    新商品の予測

    これまでは既存商品の販売予測を行ってきましたが、新商品の予測についても現在進行形ですがチャレンジしています。新商品の特徴を把握して、それに合わせたデータを収集します。新商品の発売前の市場調査、競合分析、消費者のニーズと反応に関するデータが含まれます。しかし、発売前のデータが十分揃っていないケースもあるので、その場合は関連する既存商品のデータをフル活用します。関連する既存商品の売上履歴や特性データを分析し、新商品予測モデルの基盤とします。
    新商品の販売予測精度を向上させるためには、フィードバックループが良いとされています。実績値と予測値を比較して誤差を確認し、モデルの改善を行います。新たなデータが蓄積されたら、再トレーニングを実施して精度を高めていきます。新商品の予測については、今後も取り組み状況を発信していきますので楽しみにしていてください。

    AIを活用した販売予測を進めるポイント

    最後に、AIを使った販売予測についてポイントを整理します。
    今回の取り組みを通して改めて思ったことは、予測に必要なデータが十分蓄積されていないケースや、蓄積されていても整備されていないケースがあるということです。販売予測に取り組む前に、必要なデータを蓄積しておくことと、そのデータをきれいに整備する必要があります。これは、DXやデータ化を推進するためには避けて通れないことですが、そもそもどのようなデータが必要か、どのようにデータを整備すれば良いかよく分からない場合や、人手不足で推進できず困っている方もいらっしゃると思います。そういったお困り事は、是非シグマクレストにご相談ください。一緒に進めていきましょう。
    また、販売予測の後工程にあたる需給調整業務への連携については、需給調整システム「需っ給さん」をご用意していますのでご安心ください。




    キーワードを入れると、需っ給さんサイト内から検索できます。
    例:需給調整

筆者:宮永

2018年入社
営業事務担当
前職では食品関連の製造会社で研究・開発に従事。
趣味:家庭菜園